「見た理由は?」
「今日は割引だから」
「……」
「気を取り直してなぜマーニー?」
「ドラえもんとどっちを見るか悩んだが、ジブリ最後の映画らしいので、マーニーにした」
「感想は?」
「うん。長所も多いが短所も多い映画だと思った。これが宮崎高畑抜きのジブリの全力なら、映画作りをやめるのは妥当だと思った。この映画は【ジブリ最後の映画】という看板が無いと客が呼べない」
「では長所はどこ?」
「水に関連する描写が凄くいい。坂もいい。建物も凄くいい」
「水ってたとえば?」
「上手いボートの漕ぎ方と下手なボートの漕ぎ方の違いが非常に良く分かるように描いてある」
「他には?」
「マーニーがボートの上に立ってもボートが揺れない。あれはおかしいと思ったけど、もしかしたら【揺れないのは夢だから】という表現かと思い至った。事実最後の方に主人公が立つと揺れた。確かにあれば分かった上で揺らしていない描写だ」
「じゃあ短所は?」
「シナリオの出来が悪すぎる。平均点以下。人物の描き方も甘い。特に、無表情な序盤の主人公を馬鹿正直に無表情に描きすぎ。これでは客が入り込める余地が無い。映画館だからいいものの、テレビならチャンネルを変えられかねないレベル。無表情なら無表情なりの描き方というものがある」
「ジブリ没落の始まり?」
「没落の始まりを察知してきちんと店を畳んだみたいだ。その判断は非常に良いと思う。そういう意味で、やはりジブリは偉大な存在だろうと思う。状況の変化に応じてきちんと舵が切れている」
「シナリオはどこが悪い?」
「いろいろあるが、一番悪いのは綺麗に風呂敷を畳みすぎ。本当は畳みきれないのりしろを明確に出した方がいい。逆に綺麗に風呂敷を畳むために構成上の無理をし過ぎ」
「たとえば?」
「主人公の目が綺麗という話は本当は外国人の血が入っている伏線なのだが、デブ女への罵詈雑言とワンセットなので、あまり印象に残らない」
「ふーん」
「それにね。マーニーの正体が明確化されてしまったことで、話が広がらない。広げる余地が無い。せっかく中盤で広がった世界がしぼんでしまった。何より見ている観客にはマーニーがいる不思議な世界に行く余地が全く無いことが明確化された」
「他人の箱庭だってことだね」
結論 §
「で、ぶっちゃけ、この映画は面白かった?」
「面白かった」
「どこが?」
「これは冴えているという描写がいくらでもあったからさ」
「だけど、それは河川跡探索家の君の意見に過ぎない。一般論ではどうだろう?」
「さあ。それは分からない。そういう意味で自分は一般人ではないのでね」
「一般人が見た場合、何が問題だと思う?」
「現実のレイヤーと虚構のレイヤーがとても分かりにくい表現になっている。そのあたりがネックになりそうだな」
「現実のレイヤーと虚構のレイヤーって、何?」
「宇宙戦艦ヤマト冥界譚でも読みたまえ。AmazonでKindle用の【コードネームはサターンV】を買って読んでもいいぞ」
「それは君のフィールドだってことだね」
「当然」